こんにちは、千葉です。日に日に暖かくなり、春の訪れを肌で感じられる時期がやってきました。過ごしやすくなっていく季節というのはやはり気持ちの良いものです。
この季節のささやかな楽しみの一つがスーパーマーケットの野菜売り場巡りです。陳列棚並びが入れ替わり、いかにも季節の変わり目を感じさせます。先日、あるスーパーで菜の花を買いました。通常は蕾から茎まで長さをきっちり揃えて紙を巻いて売られているのですが、その菜の花は長めの茎と葉を折り曲げて透明パックに入っていました。その時点ではあまり考えずに、値段も少し安かったこともあり購入したのですが、帰宅してパックを開けてみたところ、蕾が少なく、殆ど茎と葉だけでした。定番の『菜の花からし和え』を作ったのですが、蕾が少ないと『茎が太くて固そうなほうれん草のおひたし』にしか見えません。味は菜の花なので尚更、その独特のほろ苦さが、安物買いをしてしくじり、傷付いた心を余計にざわつかせます。結局その晩は、我が家の食卓に春は訪れませんでした(笑)みなさん、やはり見た目も大事です。
この季節は、冬の間に身を潜めていた自然界の気が、春の訪れと共に伸びやかに動き出します。人も自然の一部ですので例外ではありません。東洋医学では、春は肝が活発に働くとされます。肝は身体の気の流れを伸びやかにし、それによって脾(消化器系)の働きも助けます。肝の働きが失調すると、イライラして怒りやすかったり逆に落ち込んだり、或いは食欲が無い、またはお腹が痛いなどの症状が出てしまいます。肝の働きが活発になり肝血を消耗しやすいので、血を補い、また共に巡る気も補いつつ、気血の流れを伸びやかにする食薬を多く摂るように心掛けます。よって春の食薬は次の点に気をつけながら選びます。
①この時期に働きが活発になり消耗する肝血を補い、またそれを巡らす気も補う。
②肝気の流れを伸びやかになるよう、温め発散させる。
③怒りの感情や興奮しすぎなど、肝気が強くなり過ぎた場合は、抑える働きのある『酸味』や、冷し効果の食薬を適度に取り入れる。但し、取り過ぎには注意。
旬の食べ物は身体に良いと言われます。それらが春の薬膳①②③に当てはまるかどうか、幾つか見てみました。結果は、当てはまる食薬が多いが、当てはまらないものも結構ある印象です。参考文献も目を通しましたが、殊更に季節野菜摂取の強調はしておらず、通年食薬の中からの春のお勧めも多いです。薬膳生活を身近なものにする為に、入手が容易な通年野菜を上手く使っている側面もあるかもしれません。以上より、私が改めて感じた事は次の通りです。
①季節感を食卓に運んでくれる旬の食薬は、毎日の生活に笑顔も運んでくれる。
②一方、通年野菜等の食薬であっても、効能を意識して新鮮なものを上手く利用すると充分に薬膳生活になる。
③自然の力が漲っているという意味では、季節の『旬』のみならず『採れたて』も大事。
個人的に気になる旬の春野菜を挙げてみました。やはり、なるべく手をかけずに食するのが良いですね。
⑴島らっきょう 気を巡らす 温性 辛味
とにかく元気になります。水で土を洗い落として薄皮をとり根を切り落とし、白い部分と緑の葉の部分を切り離し別々に扱います。白い部分は容器に入れて軽く塩を振って、揉んで保蔵容器に入れておくだけ。野性味のある辛味と薄塩味がとても相性が良く、また齧る程に、大地からの力が身体にみなぎっていく感があります。また、緑の部分は細かく輪切りにして赤味噌と和えるだけ。シンプルに熱々ご飯に乗せても良し、味噌汁に使っても良し、豚肉と玉めぎを炒めても良し、独特の風味が有り使い勝手も良いです。
⑵アスパラガス 身体を滋養し潤す 微温 甘味
春のアスパラガスは超優等生です。例えるならば、のび太のライバル『出来杉くん』でしょうか。抗酸化作用のあるルチンや疲労回復に効果があり栄養ドリンクにも使われるアスラパラギン酸、その他ビタミンCやカリウム等を含みます。薬膳的には身体を潤す効果があるとされ、空咳・喉の渇き・便秘等に効果もあります。バター醤油炒めが好きなのですが、加熱によるビタミン減少を軽減する為、縦半分に切って電子レンジでチンしてから、軽く炒めています。
⑶菜の花 気血を巡らす 温性 苦味 辛味
冒頭に登場した菜の花、これは春の食卓に欠かす事ができない食薬です。解毒作用もあり、春の主役である肝の働きを助けてくれます。千葉県に住む私はスーパーに陳列されている菜の花を見ると、『清々しい風が吹き抜ける青空の下で、一面に広がる菜の花畑とその先の房総沖が見える春の風景』が目に浮かびます。アスパラ畑はよく分かりませんが(笑)、菜の花畑は目に浮かびます。味や効能だけではなく、そういった食薬の持つ印象を思い浮かべながら食卓を囲むと、薬膳生活がまた少し楽しくなります。
それでは皆様、旬の食材で季節を感じながら一日一日美味しく楽しくお過ごしください。
参考文献
『こよみ薬膳』 本草薬膳学院
『薬膳の基本』 緑書房
『はじめての薬膳生活』 法研
『その調理、9割の栄養すててます!』 世界文化社